2024.06.15 2024年4月から義務化!介護施設のBCP策定について徹底解説
「BCP(事業継続計画 Business Continuity Planning)」は自然災害や感染症発生時に利用者の安全を確保し、必要なサービスを継続するための重要な計画です。近年、大規模な自然災害の増加や新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、介護施設の危機管理体制の強化が急務とされています。
2024年4月からは全国全ての介護施設・事業所にBCP(事業継続計画)の策定が義務付けられました。
今回は介護施設がBCPを策定する上で押さえておくべきポイント、介護施設においけるBCPの基本的な考え方やBCP対策を行うメリットなどを解説します。
介護施設のBCPが義務化された背景
介護施設のBCP(事業継続計画)対策とBCM(事業継続マネジメント)の義務化は、近年の自然災害の増加と新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に、介護施設の危機管理体制の強化が急務となったことが大きなきっかけです。
全国各地での豪雨や台風被害による被害を受け、政府は社会福祉施設などでの非常災害対策の見直しを進めてきました。
さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大により、介護施設でのクラスター発生が社会問題化したことで、感染症対策を含めた総合的な危機管理の必要性が浮き彫りになったことも、介護施設のBCPが義務化された経緯でもあります。
義務化はいつから?
大規模な自然災害やパンデミックを受けて、厚生労働省は2021年3月に「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」を改訂し、BCP策定を含む災害対策の強化を訴求。2024年度からは介護保険法施行規則の改正により、全ての介護施設・事業所に対してBCPの策定が、2024年4月から義務付けられました。
この義務化により、介護施設はBCPの策定とBCMの実践を通じて、災害や感染症の発生時においても利用者の安全確保と必要なサービスの継続を図ることが求められています。
義務化に従わないとどうなる?そのリスクを解説!
BCP義務化に伴う罰則は定められていませんが、従わない場合は以下のようなリスクが発生する恐れがあります。
介護報酬減算のペナルティ
令和3年度の介護報酬改定では、介護報酬が0.70%上がる一方、感染症対策への評価として0.05%が割り当てられました。つまり、BCP策定やBCMを実施していない場合、介護報酬が減算されます。介護報酬は介護施設の主要な収入源であり、減算は経営に直結する大問題です。
訴訟リスクや高額賠償
BCP対策やBCMを実施せず、災害や感染症で入所者や職員に被害が及んだ場合、訴訟リスクがあります。介護施設には利用者の安全を守る責任があり、義務化に従わない場合、過失責任を問われ、高額な賠償金の支払いを求められる可能性があります。
社会的信頼の失墜
適切な対応ができなかった場合、介護施設は社会的責任を追及され、信頼を失う恐れがあります。介護施設は社会的弱者を預かる立場にあり、その責任を果たせなければ、社会的批判や信頼の失墜につながります。これは介護施設の存続にも関わります。
介護施設がBCP対策を行うメリット
BCP策定によって、介護施設はどのようなメリットが得られるでしょうか。ここでは、安全面、事業面、雇用面などに触れながら、対策を行うメリットを解説します。
利用者と職員の安全確保
BCP策定の最大のメリットは、災害や感染症発生時に利用者とスタッフの安全を確保できることです。BCPでは非常時の避難計画や備蓄品の確保、感染対策などを定めます。これにより、介護施設は利用者に適切なケアと保護を提供し、スタッフも安全に働くことができます。
サービス提供の継続性維持
介護サービスは利用者やその家族の生活を支える重要なライフライン。
BCPを策定し、非常時にもサービス提供を継続または早期に再開できる体制を整えることで、利用者の健康と生活を守ることができます。サービス継続性の維持は、介護施設の信頼性を高め、利用者や家族、地域からの支持につながります。
業務改善の好機
BCP策定の過程で、介護施設は自らの業務フローや人員配置を見直すことになります。
この作業を通じて、潜在的なリスクや課題を発見し、対策を講じることができます。また、スタッフのスキルアップや連携強化にもつながります。BCP策定は、介護施設の経営改善やサービスの質の向上に役立つ機会となります。
BCP策定の基本的な流れ
BCPが義務化された背景や義務化に従わない場合のリスク、BCP策定を行うことによるメリットを理解したうえで、実際のBCP策定にはどのような手順を踏めば良いのか理解しておきましょう。
BCP策定の基本的な流れは下記の通りです。
1.事前調査(策定前のチェックリストをもとにヒアリングを行い、現状を把握する)
2.基本方針策定・被害想定・重要業務の優先順位付け・緊急時体制の整備
3.必要備品の用意・災害時対応のマニュアル作成
4.BCPの理解を浸透させるための教育・訓練の実施
5.検証・改善(チェックリストをもとにBCPが機能しているか確認する)
上記に加えて、事業継続力強化計画(中小企業が自社の災害リスク等を認識し、防災・減災対策などを記載するもの)として国から認定を受けると、税制措置や金融支援、補助金の加点などの支援策が受けられる点も覚えておきましょう。
近藤商会でのBCP策定支援の流れと料金の目安は、こちらをご覧ください。
介護施設におけるBCP策定の手順
介護施設におけるBCP策定の手順については、厚生労働省が提供している「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」のページにガイドラインとひな形が用意されています。
ガイドラインには、BCPの基本的な考え方や作成手順、計画に含めるべき内容などが詳細に記載されています。このひな形を活用することで、各施設の特性や規模に合わせてBCPを効率的に作成することができます。
ここからは、介護事業所のBCPの作り方を自然災害、感染症別に紹介します。
自然災害におけるBCP策定方法・手順
1.対応体制の構築
災害対応チームを設置し、役割を明確化します。
緊急連絡網を整備し、施設長が全体の指揮を取ります。各部署の責任者が具体的な業務を担当し、職員の行動指針や避難計画を策定します。
2.施設のリスク評価
施設の地理的、構造的特性を把握し、地震や水害などのリスクを評価します。地元自治体のハザードマップを活用し、施設の立地に応じた災害リスクを特定し、対策を強化します。
3.対応計画の周知徹底
避難ルート、非常用品の位置、応急手当の基本など、災害発生時の具体的な対応計画を全職員に周知します。定期的な研修を通じて徹底を図り、利用者やその家族にも緊急時の連絡方法や対応計画について情報提供します。
4.PDCAサイクルによる改善
BCPは定期的に見直しと改善を行う必要があります。
計画の実施状況を評価し、問題点や改善点を洗い出して次の計画に反映させます。PDCAサイクルを繰り返し、BCPの完成度を上げ、災害対応能力を向上させます。
感染症におけるBCP策定方法・手順
1.情報共有体制の確立
感染症対策チームを設置し、施設内外の関係者間での情報共有体制を確立します。
医療機関、保健所、地域の他の介護施設との連携を強化し、チーム内での役割分担を明確にして、感染症発生時の迅速な意思決定が可能な体制を整えます。
2.感染者発生時の対応策定
感染者や疑い者が発生した際の具体的な対応プロセスを策定します。
緊急隔離エリアの設定、患者の状態に応じた対応ガイドライン、消毒計画を含めます。また、訪問者の管理や職員の健康状態の監視方法など、感染拡大防止のための対策も定めます。
3.職員確保の人員計画
感染拡大のリスクがある場合でも介護サービスを継続するための人員計画を立てます。非常時の職員シフトの調整や、外部の人材確保の方法を事前に検討し、十分な人員を確保できるよう備えます。
4.業務の優先順位の整理
限られたリソースの中で、提供するサービスの優先順位を明確にします。直接的なケア、清掃、食事の提供などの業務を重要度に応じて分類し、状況に応じて調整する計画を策定しましょう。
5.研修・訓練による実効性向上
BCPの実効性を高めるため、平常時からの周知と研修、訓練を行います。職員に対して定期的に感染症対策の研修を実施し、実際のシミュレーションを通じて具体的な対応方法を身につけさせ、緊急時に迅速かつ適切な対応ができるようにします。
介護施設におけるBCP策定のポイント
介護施設が直面する可能性のあるリスクに備えるために、BCP策定は不可欠です。効果的な計画を立てるため、BCP策定における重要なポイントを把握しておきましょう。
①情報共有と役割分担
平時から関係者の連絡先や連絡の流れを確認し、災害発生時に誰が何をするのかを決めておくことが重要です。
迅速な対応が求められる緊急時に備え、スムーズな情報共有と役割分担を徹底することが、円滑な業務継続につながります。
②業務の優先順位の決定
緊急時には通常とは異なる手順で業務を行う必要があります。
あらかじめ業務の優先順位を決めておくことで、スタッフの不安や負担を軽減しつつ、スムーズな業務遂行が可能となります。優先度の高い業務に注力することで、利用者へのサービス提供を維持できます。
③感染症発生時の対応
新型コロナウイルスなど事業継続に影響を及ぼす感染症の感染者が発生しても、業務を継続しなければなりません。
感染者発生時に何をすべきか平時から整理し、シミュレーションを行っておくことが大切です。迅速かつ適切な対応を行うための準備が、感染拡大防止と業務継続の両立に役立ちます。
④周囲との連携でスタッフを確保
緊急時にはスタッフ不足が予想されます同系列施設や他法人と連携し、平時からスタッフ確保の方法を決めておくことが重要です。
外部との連携体制を構築することで、有事の際にも安定的な人員配置が可能となり、業務の継続性が高まります。
⑤有事に備えた研修・訓練の実施
BCPを策定しても、緊急時に冷静に対応できるとは限りません。
迅速な行動ができるよう、定期的な研修や訓練を実施することが重要です。研修・訓練を通じて計画の問題点を洗い出し、改善を図ることで、有事の際の対応力が向上します。近藤商会ではお客様の事業継続を強力にサポートさせていただくため、BCP策定コンサルティングサービスをご用意しております。サービス内容の詳細はこちらをご覧ください。
まとめ|利用者の安全な生活を守るため、介護施設はBCP策定を万全に!
介護施設のBCP策定は2024年4月1日までに義務化されましたが、自然災害や感染症の拡大などの緊急事態が増加しており、介護施設の入所者や職員の安全、事業の継続のためにBCPは必要不可欠です。利用者の家族が安心して日々の生活を送るために、一日も早くBCP策定に取り組みましょう。
近藤商会では、BCP策定コンサルティングサービスで介護施設の事業継続をサポートしています。お客様の状況に合わせてご支援いたしますので、まずはお気軽にお問い合わせフォームからご相談ください。
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